JR東日本・東北新幹線の八戸(青森県八戸市)−新青森間(81.8キロ)が2010年12月4日開業し、東京−新青森間(713.7キロ)が全線開通した。基本計画から38年で本州最北端に到達し、地元活性化への期待が高まる。
延伸区間は1998年着工、区間の約62%を19本のトンネルが占め、唯一の途中駅・七戸十和田と新青森の間にある八甲田トンネル(約26キロ)は複線の陸上トンネルでは世界最長となる。
開業により東京−新青森間は最短3時間20分と従来より39分短縮された。2011年3月5日に新型車両E5系「はやぶさ」が登場、さらに10分短かくなり、2013年春には国内最速の最高時速320キロへアップし同3時間5分で結ぶ計画。並行するJR東北線・八戸−青森間は第三セクター「青い森鉄道」が引き継いだ。
開業初日の4日は悪天候に見舞われ上下線8本が運休、秋田、山形新幹線を含め上下線22本が最大約3時間遅れたほか、夕方に東京駅で東京発仙台行き「やまびこ147号」がドアを開けずに発車し、200人が乗車できないトラブルもあるなど、ややけちがついた。それでも、東北新幹線新青森開業後3日間の輸送実績(JR東日本まとめ)は、八戸−新青森間の利用客は前年比26%増の1日平均7200人で、特急乗り継ぎに比べ1500人増えた。最多は初日の4日で8600人(46%増)、平日の6日は4%増の5500人。新設の七戸十和田駅は1日平均1100人、新青森駅は同7000人と、それなりの盛況だった。
地元の経済効果への期待は大きい。青森県は「全線開通は千載一遇のチャンス」(三村申吾知事)と、観光客呼び込みや企業誘致を期待する。2002年開業の盛岡−八戸では、開業前1年の乗客数277万人から開業後1年は418万人に増え、1年間の経済効果は700億円近くと試算された。今回の新青森までの延伸で、観光資源が豊富な津軽地方が近くなることから、県は八戸までの開業以上の効果を期待。県は今年度の首都圏向けPR予算を3億7000万円確保。また、新青森駅構内に名産品や食材を集めた物販店を設けている。
JR東日本も俳優の三浦春馬さんや歌手の吉幾三さんらのテレビCMやポスターによるPRを首都圏で展開、津軽三味線の鑑賞と組み合わせたパック商品なども販売する。
ただ、今後の集客には不安も残る。集客以上に、地元の人が、「近くなった」仙台、さらに東京まで買い物などに行ってしまう「ストロー現象」の懸念がささやかれる。実際に秋田新幹線開業(1997年)で秋田市中心街の通行量が減ったという調査もあり、「過疎とストロー現象の両方が効いた」(地元経済界)との声も。
2015年には北海道・新函館まで延びる計画であることから、「通過駅」になるのでは、との指摘もある。観光地として知名度、実績とも青森を上回る函館との勝負になるからだ。「まだ注目されていない東北観光の魅力を売り込むとともに、また仙台や東京に人を吸い上げられないよう、魅力ある街づくりなど人口流出対策も地道に進める必要がある」(青森経済界)。
「並行在来線」も楽観できない。JR東北線の八戸−青森を引き継いだ「青い森鉄道」は02年に盛岡−八戸で運行を開始し、今回の引継ぎ分を含め、総延長122キロの日本一長い在来線になった。累積赤字(今年3月末現在)は約2億6000万円にのぼり、人口減少で1日利用者数は、現在の約1万1000人から30年後には約6600人に減ると見込まれている。県は保守管理費用などとして赤字補填に年間16億円を支出するが、今回の盛岡—新青森間の開業に伴う地元負担1850億円(今後の新函館までの68.6キロを含めると総額で約2600億円に膨らむ予定)も重くのしかかり、これ以上の在来線支援は難しいという。